サンシャイン水族館(東京)
「天空のオアシス」をコンセプトとした憩いの水族館
- 都内5位
- JR池袋駅35番出口より徒歩約10分/東京メトロ東池袋駅6番、7番出口より地下通路で徒歩約5分
- ★★★★☆11
開業から46年の歴史を持つサンシャイン水族館(東京・池袋)では、1987年(旧サンシャイン国際水族館)に「ケープペンギン」の展示を開始しました。『IUCN絶滅危惧種レッドリスト™』(以下:レッドリスト)を作成する国際自然保護連合(IUCN)は、2024年10月28日(月)に「ケープペンギン」を絶滅危惧カテゴリーの中でも「深刻な危機」(CR) にあると判定し、野生での絶滅の可能性が極めて高いことを強調しました。このまま数が減り続ければ4,000日以内にケープペンギンが自然絶滅する可能性があるとも考えられています。
主に南アフリカに生息しているケープペンギンですが、国内の水族館でも数多く飼育されています。一見「どこにでもいるペンギン」だと思われがちですが、その生態や生息域の問題についてはあまり知られていません。今回のいきものディスカバリー通信では、サンシャイン水族館の象徴的な水槽である「天空のペンギン」でも飼育しているケープペンギンについて、“今”直面している課題や今後ケープペンギンをはじめとする海の生態系を守っていくために私たちができることをお伝えします。
ケープペンギンがレッドリストに初めて絶滅危惧種として判定されたのは2010年。そこからわずか14年後の2024年にはそのレベルが上がり、絶滅危惧カテゴリーの中で、最も絶滅リスクが高く、野生絶滅一歩手前の「深刻な危機」(CR)と判定されることに。大きく数を減らし続けている主な原因は、ケープペンギンを取り囲む環境の変化にあります。その変化の原因は、私たち人間の歴史と密接に関わっています。
ケープペンギンは、遡ること1497年にバスコ・ダ・ガマの航海船によって発見され、西洋に知られるようになりました。19世紀になると、脂肪が多く簡単に捕らえることのできるペンギンは食料や「ペンギンオイル」と呼ばれる食用油・燃料として利用されてきました。
本来、ケープペンギンは「グアノ層」と呼ばれる海鳥の糞や死骸が何万年にも渡って積み重なった地層に巣を作ります。20世紀初頭には、このグアノが優秀な肥料として知られ、莫大な利益をもたらす「白いゴールドラッシュ」と呼ばれるほどでした。人間の手によってグアノが大量に採掘され、ペンギンたちは営巣地を失ったと考えられています。また、同時期には食用としてケープペンギンの卵が1年に100万個近くも乱獲され、卵の採取は規制される1967年まで続きました。住処をなくして地表に巣をつくる個体もいましたが、直射日光によるダメージ等で卵が傷ついたり、陸上の捕食者にさらされることも少なくありませんでした。
近年では様々な規制によりケープペンギンの乱獲や資源としての利用はほとんどなくなりました。しかし、生息地周辺で行われる人間の経済活動が生息地に大きく影響を与えていることに変わりはありません。大型タンカーが行き交うケープタウン沖では重油流出事故が絶えず、その一帯に生息するケープペンギンの羽毛は油まみれになり、防水機能を失って、多くの ケープペンギンが犠牲になりました。さらに追い打ちをかけるように、漁業で廃棄された網や釣り針、プラスチックごみなどもケープペンギンを傷つけてしまう原因となっています。
エサを確保することも一苦労。ケープペンギンの主食となるイワシなどの小魚が、人間による大規模商業漁業によって乱獲され、さらに気候変動と海水温上昇等が続いたことでイワシの群れの分布が大きく移動しました。その結果、ケープペンギンの 生息地から獲りに行けるイワシの量が大幅に減少し、深刻なエサ不足につながっています。
このような歴史と現状により、全世界に生息するケープペンギンは1920年代と比べ97%も減少してしまいました。この状況が続けば、4,000日以内に絶滅する可能性があると言われています。現地ではケープペンギンという種を守るため、南アフリカ沿岸鳥類保護財団 「SANCCOB」や「バードライフ・サウスアフリカ」などの保護団体が活動を行っています。 サンシャイン水族館もその一助となるため、ケープペンギンの生態や課題について知ってもらうための活動を続けています。
ケープペンギンは南アフリカやナミビア周辺等、唯一アフリカ大陸に生息するペンギンです。ペンギンは氷の上で生活しているイメージを持たれがちですが、ケープペンギンは比較的温暖な地域に生息しています。体長約60cm、体重3~4kgほどで、ペンギンの仲間の中では中型。主食はイワシなどの小魚で、水中でエサを獲り、岩場の隙間や藪の根元に作った巣の中で卵を温めます。鳴き声がロバのように聞こえることから、ジャッカス(英語でロバを示す)ペンギンとも呼ばれています。そんなケープペンギンの体には隠れた秘密が盛りだくさん。サンシャイン水族館のペンギンたちを観察してみましょう。
野生のケープペンギンは、海の近くの草原に巣穴を掘って生活していることもあります。「草原のペンギン」水槽は、草原で暮らす本来のケープペンギンの日常イメージが観察できるように作り上げた世界初の水槽です。岩場部分には巣穴もあり、絆が強いと言われるケープペンギンのペアたちが仲良く暮らす様子や、時期によっては両親がヒナを育てる風景を見ることができるかもしれません。2024年5月に誕生したケープペンギンのヒナも、ふ化から現在までこの水槽で暮らしています。(2025年1月現在)
「天空のペンギン」水槽は、正面から頭上にかけて大きくオーバーハングした水槽です。目の前には都会のビル群の上空を飛び交うように泳ぐケープペンギンの姿が、そして見上げれば頭上を羽ばたくケープペンギンの姿が見られます。普段はあまり知られていない、波や潮流をものともせず海で毎日魚を獲るケープペンギンの俊敏な泳ぎが見どころです。
何よりも大切なことは「ケープペンギンの現状を知ること」です。水族館には、お客様が楽しみながら「命の大切さ」や「生きることの美しさ」を感じ取ってもらう役割とともに、種の保存や生態調査・研究、そして見に来た方が自然や生き物について考えるきっかけとなる「教育」の役割もあります。様々な水族館や動物園に足を運んでみて、気になる生き物がいたら、どんな生き物なのか調べてみましょう。サンシャイン水族館では毎年4月25日の「世界ペンギンの日」に合わせたイベントも実施しているのでぜひ足を運んでみてください。